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ニャラリーガルはなちゃんのひねもすのたり日記

森法律事務所のトップに君臨するニャラリーガルハナちゃんとハナちゃんに従える下僕所長、それぞれの、ひねもすのたりのたりの日々を送ります。このブログで、社会に何かを発信しているわけではありません。

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正当事由について「理屈」ばかり論じても、あんまり意味がないので、今日は、
正当事由判例研究その1として、土地の賃貸人が、賃借人に対し、土地賃貸借契約は期間満了により終了したとして、建物収去土地明渡し及び約定使用損害金(賃料の3倍相当額)の支払を求めた事案において、立退料の支払いと引換えに明渡しを認容した判決(東京地裁 平成25年1月25日判決)を紹介しましょう。
裁判所の考え方が何となくわかると思います。

1  事案の概要
原告は学校法人で、被告は、ラーメン屋を営むもので年齢は69歳。

2、賃貸人の土地明け渡しの必要性
①原告は大学病院の設置主体として、極めて公共性の高い使命を担っているが、大学及び病院として必要とする施設が不足している状況にある
②原告が設置した施設には、耐震性に問題がある老化建物が多く、その中には、専門家から早急の建替えを求められているものもある。老朽化の進んだ原告施設の耐震性の確保は人命に関わる喫緊の課題といえる
③その建替えを効率的に行うためには、スクラップ・アンド・ビルドを進めるのが合理的である。(スクラップ・アンド・ビルドとは、一部区画を更地にして、そこに建替えの優先順位の高い施設の機能を移転させ、移転の終わった施設を取り壊して、その跡地に更に別の施設の機能を移転させるという作業を繰り返す方法)。
④そのためには大通りに面している本件土地を含む貸地部分を計画建物の敷地に編入してこれを使用する必要性は極めて大きい。
④原告には、本件土地を自己使用する高度の必要性が認められる。

3、賃借人の自己使用の必要性
①昭和45年以来、本件土地上の本件建物を自宅兼うどん店として使用している。②本件建物を収去して本件土地を明け渡した場合には、自宅を失うばかりでなく、生計の途を断たれることになる。

4、正当事由と自己使用の必要性の比較
①被告の年齢(69歳)、本件建物の築年数(築42年)、近年の売上げの減少傾向等を考えると、閉店して引退してもおかしくない時期にある。
②このような意味において、本件土地の自己使用の必要性は、原告側の事情が被告側の事情をやや上回ると解される
③しかし、被告側の事情も切実なものである。
④被告に対する十分な補償(立退料の支払)の下に、初めて更新拒絶の正当事由が具備されると解する。

5、立退き料の金額
①本件においては、賃借人側の事情を最大限考慮し、借地権価格の全額を補償するに足りる立退料の支払が必要である。
②鑑定の結果によれば、鑑定時(平成24年4月18日提出)における本件土地の借地権価格相当額は1820万円である
本件土地付近の路線価は平成23年から平成24年にかけて約1.72%下落しているから、現在における借地権価格は、上記金額を若干下回るものと解される。
③本件建物は築42年の木造家屋であり、建物自体の客観的価値に大きな評価を与えることは困難である。また、本件建物に設置されている設備等は、減価償却も終わっていると推認され、残存価値はわずかなものと解される。
④うどん店の営業補償、本件建物からの移転に要する諸費用等の要素を全て考慮する。
⑤本件において正当事由を補完するために必要な立退料の額は2000万円と認めるのが相当である。

[OMAKE];
瀬戸内に浮かぶウサギの島 大久野島に行ってきました。下の写真は、そのウサギです。クリックすると拡大します。


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建物明渡が認められる正当事由とはその1・2からお読みください。

[賃借人が建物の使用を必要とする事情]
「賃借人が建物の使用を必要とする事情」は、居住用なら、家族として地元に定着していることや子供の学校問題が「必要とする事情」になるだろう。
もっとも、都心で夜間人口が少ないような場所だと、地元に定着している等は、正当事由としては、やや弱い。逆に地方の郊外などでは、住んでいることそれ自体が「当正当事由」になる。

ただ、少なくとも東京都心では、実務上問題になるのは、賃借人が、そこで小売業等の営業している場合である。ここで商売をつづけてきて顧客がこれだけついている。これだけ儲かっている、出ていくなんてとんでもない、ここを出て行ったらどうやって今後の生活を確保するんだ?
これは、立退き拒否のかなり強い根拠になる。ただ、裁判では、申告書等で、これらの営業利益を証明する必要がある。
問題は、おそらく、かなりの零細企業が、申告額は現実の利益額よりも少ないことだ。「逆粉飾」である。
売り上げ除外か経費増幅かはともかくとして、真実の利益はこれだけだということを客観的な資料で説明しないと裁判所は納得しない。
利益があまり上がっていない、赤字続きだとなると、「賃借人は、立退き料目当てで拒否しているだけだ」として、裁判所が厳しい視線を向けることになる。

賃借人としては、訴訟になったら、ただ単に、「ここを出て行ったら生活できません」と防戦するだけでなく、賃貸人の主張する「賃貸人が建物の使用を必要とする事情」を、責める必要がある。
賃貸人が、明渡後の設計プランを示した時、本当に採算があうのか、そもそも建築基準法上、そういう設計が可能なのか、これをつぶさに検討すると、意外と賃貸人のプランが、いい加減な場合がある。逆に言えば、賃貸人としては、きちんとファイナンスの専門家やや設計士の助言を取り入れて、明渡後の利用プランを明示する必要がある。

[OMAKE]
瀬戸内に浮かぶ大久野島に行ってきました。下の写真は、そのウサギです。クリックすると拡大します。左の写真は、毒ガス製造施設の一つです。




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「建物明渡が認められる正当事由とは その1」からお読みください。

有効利用を強調しすぎると、裁判官によっては、そんなに儲かるなら高額の立ち退き料を支払うべきだと言い出す裁判官もいる。
逆に高額の立退き料を避けるため、有効利用を強く言わないと、裁判官によっては「それなら明け渡しを求める正当理由がない」と言い出す裁判官もいる。
このあたりは、裁判所で統一基準がなく、裁判官が個人の主観でてんでばらばらに判断しているというのが実情だ。
個人的には、正当事由の必要性が証明できればできるほど立退きが困難となり、高額の立退き料が必要になるというのは、ありえない話だと思うが、こういう論理矛盾的思考を平気で行う裁判官が多い。
また、こういう有効利用の必要性は、その有効利用が地方公共団体あるいは国の都市計画に沿うもので公共的に有益であることを証明する必要がある。ただ単に「儲かりまっせ」というのでは、論外だ。

以上は都会の都心の話である。地方の空き地だらけの郊外で、いくら有効利用を主張しても、単に「大家の金儲け」として相手にされない。
それでは、地方の場合は、正当理由としては、何があるだろう?賃貸人としては、建物の修繕維持に費用がかかりすぎ、このままでは賃貸経営が成り立たないことや、倒壊の危険性、火災のリスクなどを主張することになるが、都心と異なり立証要件は厳しい。従前の維持修繕費、今後予想される維持費と賃料収入、こういうものを図示し、裁判官に分かりやすく証明する必要がある。

いずれの場合も、転居の可能性やその費用負担の申し出、さらには立ち退き料の申し出を補完的に行う必要がある。このうち、立退き料については後日に述べる。
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[正当事由とは]
賃借人に問題はないけれども賃貸人側の都合で明渡し請求をする場合は、賃貸人に「正当事由」が必要である。訴訟になったら、裁判官に明渡の「正当事由」があることを納得させなければならない。
では、どういう場合に明渡の正当事由があると言えるだろうか。
借地借家法28条は、この点につき、次のように規定している。
   記
1、 賃貸人が建物の使用を必要とする事情
2、 賃借人が建物の使用を必要とする事情
3、建物の賃貸借に関する従前の経緯
4、建物の利用状況
5、建物の現況
6、賃貸人が申し出た立ち退き料の額
を考慮して正当事由を判断する。

このうち、一番重視されるのは、1と2だろう。3ないし5は、1,2の「事情」の中で特に重要な事項を例示したものと考えられる。
裁判所の判断としては、まず賃貸人が建物の使用を必要とする事情を吟味し、ついで賃借人側が建物の使用を必要とする事情を吟味し、最後にこの両者を比較して判断することになる。この比較にあたって、建物の賃貸借に関する従前の経緯・建物の利用状況・建物の現況等が考慮される。これが、正当事由の判断プロセスである。

[賃貸人の正当事由]
「賃貸人が建物の使用を必要とする事情」の典型例は、「賃貸人が、他に住む場所がない」というケースだが、こういう例は、現実には、あまりない。
多くの場合、正当事由は、建替え・高度利用の観点から主張されることが多い。建物が木造の上、極端に老朽化している。周囲は、ビルかマンションばかりだ。
建替えて高度利用したい。
こういう場合、地方では、正当事由が認定されることは少ないが、東京・大阪といった大都会の都心なら、建替えや高度利用を理由として正当事由が認定されることが多い。

賃貸人としては、訴訟では、街全体の写真とか、建物の老朽化が分かる写真とか、そういうものを整理して裁判所に出すことで、老朽化がいかにひどいかを裁判官に納得させる必要がある。町内会からクレームがきているし、消防署からも目をつけられているとなると、さらに正当事由が補強される。
その一方で、新たに高度利用した場合の具体的な図面、そこから上がる収益、街に与える影響、こういうものを数字や図、写真などで裁判所に示す必要がある。

問題は、有効利用をどこまで強調するかである。このさじ加減が難しい。(続く)

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借家か否かが、かなり微妙なケースは、実は、かなりある。
その一つがショッピングモールである。家というのは、屋根があり、壁がある。つまり、単独で風雨をしのげる程度に独立性がなければならない。しかし、ショッピングモールは、単なる「区画」があるだけで、「家」という概念に相当するものがない。世間常識からすれば、ショッピングモールは「家」ではなく「区画」にすぎない。
しかし、裁判例は、かなり強引な認定をし、基本的には、ショッピングモールも借家であるとして、借地借家法の適用を認めている。法的保護の必要性という点で、「家」を借りた場合と同じだと考えるからだろう。

もう一つは社宅である。これは「区画」ではなく、立派な「家」で、安いとはいえ、賃料を支払っているのだから、理屈上は、借家であるとして借地借家法の適用を認めることになるはずである。
ところが、裁判所は、ショッピングモールとは逆の判断をしている。極端に安い賃料の時は使用貸借であると認定をし、借地借家法の適用を排除している。それなりの家賃のときは、賃貸借と認定するが、雇用契約と一体不可分のものとして解約申し込みに正当理由があると認定する例が多い。

社宅については家でありながら借家法の保護を否定する一方で、単なる区画に過ぎないショッピングモールに借家法の保護を認める。
ここいらあたりに、理屈にとらわれず柔軟な解決を図る裁判所のバランス感覚が現れている。
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